全部原価(計算)の弱点は「作る個数(生産数量)で原価が変わる」ということにつきます
また、製造固定費が変わると製品の品質は同じなのに原価が変わる点も問題です
こんな話がありました
あるメーカーが、工場の屋根の改修を行いました
すると、材料はいままでと同じもので作っているのに、改修後の製品原価が上昇しました
原因は製造固定費の減価償却費が増えたからでした
ある酒造会社では繁忙期には手の空いた者、たとえ社長や役員でも総動員です
そうするとどうなったのか?
やはり製造固定費である労務費の上昇で、同じ品質であるはずの清酒の原価が上昇したのです
経営者の、いや一般消費者の普通の感覚では「それはおかしい・変だぞ」と思うはずです
(笑い話にもなりません)
でも、これが製造業の実態・真実です
原価計算係長は原価計算基準にのっとって、正しく計算をしただけですから
さて、本題です
「生産数によって原価が異なる」ことによって生ずる問題は深刻です
岡本清先生はその著書「原価計算」(国元書房)のなかでこう述べています
『伝統的な全部原価計算にもとづく損益計算書は、(短期)利益計画に役立たないことを、まず理解しなければならない』(P483)
具体的に云うと次のとおりです
1.経営計画が立案出来ない なぜなら正しい原価がわからないからです
2.期中に営業部隊は、あとどれだけ販売すれば良いのかわからない
なぜなら、締め後に在庫が確定してからでないと正確な利益がわからないからです
つまり、損益分岐点がわからないままの「なりゆき経営」になる
3.計算が煩雑でそもそも出来ない あるいはその担当者しか計算方法をわかっていない
4.内製化するべきものでも外注に出してしまう
5.本当は利益が出るのに、受注を赤字と判断して断ってしまう
6.販売価格が高くなることによる競争力の欠如
FCによる原価計算の仕組みはこうです(図1)
製造固定費が仮に600万円・材料費が1個1万円とします
製造固定費は生産数で按分されます(配賦されます)
1個しか生産出来なければ、原価は601万円
2個ならば原価は301万円
3個なら原価は201万円
4個なら・・・
生産個数が増えれば増えるほど、原価がさがる仕組みがよくわかりますね
工場長はそれが売れる売れないはお構いなしで、生産数量を上げることに邁進します
1個当たりの原価を1円でも下げること、ひいてはそれが利益アップに貢献していると勘違いしてしまうからです
経営計画にはFCは使えません
FCをそのまま経営計画に使えば、意思決定を間違える危険性大です
製造業や建設業の人にこそ、MGを勉強して欲しいのはこんな理由からです
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〈初出日2017.1129〉